お京さん2008/06/27 17:03

 
 前に出た左利きの話から思い出したのがお京伯母さんのこと。
伯母はお箸も左手だったので子供の頃は不思議だった。

 飛行機のない頃、汽車を乗り継いで二日もかかる離れたところに住んでいた。
 伯父夫婦が遊びに来るという便りが入るとお祭りの日を待つように皆で楽しみに待った。

 珍しいお菓子や新しい洋服のお土産も嬉しかったが、伯父の堅い、為になる話と伯母の柔らかな話,どちらも不思議の国の出来事のようで皆で聞き入った。
 二人は毎年我が家にしあわせの神さまのように訪れた。

 戦後の我が家は10人家族で貧しかった。伯父は私たちを陰で支えてくれた恩人だ。
 実は伯父とも伯母とも我が家とは血縁がない。
 母の姉が伯父に嫁ぎ、3人の子供を残して逝き、その後に入ったのがお京さんだ。

 再婚するとき、伯父は私の祖母を遠い地まで招いてお京さんに遭わせてくれたそうだ。
「おかあさんに会ってもらわないと結婚は出来ない」

 伯父は立派な人だったが 先妻の実家に来ていつも穏やかに私たちを喜ばせてくれたお京さん。
 世間の色々なしがらみを知るようになった今改めてとてつもなく大きな人だったと思う。

 白い足袋を履いて背筋を伸ばして座っていた。
お腹がよじれるような面白い話で皆を笑わせた。
朝は顔を洗う伯父の傍らで」タオルを持って世話をしていた。
「家に来て、あっちの学校に行かない?」と誘ってもらったこともある。

 結婚して生家を出てからは二人に会わなかった。
二人は数年前に天寿を全うした。
 
 伯父が80年前に興した会社はホンの少し私とも血の繋がっている孫が受け継いでいる。